4月ですね


 塾を初めてしばらく経ったが、この間に感じたことを書こうと思う。


 塾を経営していくことは難しいらしい。「らしい」と言うのは、そのように人から聞いたからである。「塾をやっている」と話す機会があると、「塾なんて儲からないよ」とか「別に大手予備校・学習塾にこどもを行かせておけばいい、だから小さい塾なんて親は選ばないよ」というような意見をもらうことがあった。

「確かになぁ」と思う。こどもの数は減っているし、その割に塾の数が多いと思う。こどもの争奪戦で、興味を持ってもらうために、価格を下げたり、進学実績を提示したり(私はこのやり方はあまり好きでない)、成績が上がるなどの具体的なメリットを提示しないといけないのが現実である。


 塾に来ていただくにあたって、生徒さんの成績が上がるようにするのは一つの使命だと思う。私自身も性格上、一定の成果が得られなかったり、計画の道筋がぼやけていると人一倍フラストレーションを感じるタイプである。だから、生徒さんが成績が上がらなかったり進路のことをなかなか考えれず、日々に埋没していると歯がゆい気持ちになる。面談に来てくださる親御さんからも、こどもの成績をなんとか上げ、妥当な進路を歩ませてやりたいという切実さを感じることがある。一緒に面談に来たこどもは状況が把握できず、なんとなく連れられここに来た、というような顔をしていることが多々ある。

 成績が良く目標も明確に決まっている子は、メソッドが確立された大手進学塾・予備校に行けば事足りるだろうし、今は無料でも優れた教材がたくさんある。一人一人がスマートフォンを持っているし、分からないことはすぐ調べることができる。知識へ容易にアクセスできる良い時代だなと思う(間違っている情報もあるけれど)。こどもの教育レベルに親の経済格差が深く関係していると昨今言われているけれど、塾に行かずとも、書籍や安価な動画でも賄えるのかもしれない。お金は進路決定の際、促進剤や期限延長の後押しにはなるけれど、色んなことに興味を持てる子には以前よりは「まだ」恵まれた時代だと考えることもできる。

 ただこの「知識に対して興味を持つ」という最初の一手がこどもにとって最も難しいのだろうと思う。それが塾をやってみて一番感じたことだ。「興味を持ちそれを深め、自分が感じたことを整理し、計画を立て試行錯誤を積み重ねる」この姿勢を得ることが、とても難しい。逆にこれができると、話は早い。こちらはいくらでも方法を与える準備がある。成績は自ずと上がる。車のエンジンがかかったら、あとは進むだけだ。

 そして、生徒さんと勉強に取り組んでみて思うのは、こどももとても忙しいということである。複数の塾に通ったり、習い事や部活動などのスケジュール上の忙しさはもちろん、家庭や友人関係においても忖度が発生したり、小さな頭を一生懸命働かせている。精神的な疲れや周りに対する疑問があっても、まだ言語化できないので何に悩んでるかも自覚できず、やりにくいだろうな、と感じることがある。だらだらもしたくなるだろう。自分自身もこどもの頃を振り返ると、とにかくだらだらしたいと思っていた。しかし時間は容赦なく流れ、慌ただしく進路を決めて受験する。興味を育んだり、じっくり問題解決する時間が限られているケースが多いのである。


 このような現実を目の当たりにし、しばらく、塾なんてやってこどもの忙しさに拍車をかけていないだろうか、とか、親御さんのご期待に添えるように、引っ張られて来たこどもの成績を強引に引き上げる、嫌な言い方をすると親御さんの顔色を伺いこどもを商品として扱うような塾ビジネスってどうなんだろうか、などと考えたりした。そもそも、こどもがこの塾に来ても、私や講師の言葉がてきめんに効きすんなり勉強するわけでもない。これは無責任な態度と言われるような気がするが、事実なのである。どの大人の言葉がこどもにとって響くなんて予想できず、私たち大人の意図せぬ場面や言葉がこどもの心を打つことがある。慎重に塾や家庭教師を選んだって、そのこどもにうまくフィットするかは、こんなにも塾があるのだから宝くじを当てるくらいの確率で難しいのかもしれない。

 こんな風に四角四面に考え「勝手に」落ち込んだりするけれど、生徒さんと対峙すると一人一人は愛すべき存在なのである。「塾とは?」と考えるより、生徒さんは「今こう思ってるのかな?」とか「どういう方法で一緒に勉強しようかな」と考える方が、存外おもしろい。この塾は生徒が主役なのだ。

 なんとなく塾を始め、どんな塾にしようかと考えながら動いていると「生徒が主役」という基本へ立ち戻るようになった。だから、最初は引っ張られて塾に入ったとしても、日々の悩みに対して、一緒に考え興味の芽を見つけ、生徒さん自身が「また塾に来たい」と思えるようにしたいと思う。

 勉強ができると良し(勉強ができてダメと言う人は少ないだろう、ゲームができても褒めてくれる人は少ないのに)とされる雰囲気がある中で、引け目を感じる子もいるだろうし、行き詰まりを感じる子もいると思う。私自身、それなりに勉強ができたタイプではあるが、そのメリットを大人になって使おうとしてこなかったので、勉強なんてできなくてもいいじゃない、と心のどこかで思っている。ただ、全く手付かずになるのも良くないので(心のどこかで焦りながらもただ虚しく時が過ぎ、余計ストレスになるからだ)、そういう子には「勉強嫌いだけど、まぁ、ここの塾ではやるか」くらいの気持ちになったらいいなと思う。


 まとめると、安心できる環境で、疑問や興味にアクセスしやすく、生徒さん自身を活性化し、大人になっても自分で思考し適切な情報を選べる知的体力を作る。これがくるーむ大阪のコンセプトなのである。具体的でないように思えるし、もっとシステム化されたメソッドを提示してほしいというようなご感想が聞こえて来そうだが、まだ塾を始めて日が浅いからか、まとまった方法は確立していない。それに、生徒さん一人一人に対してオーダーメイドで、我々も時代や生徒さん個人に対し、講師も柔軟に変化していくのが、くるーむ大阪の強みなのかもしれない。また、生徒さんを商品のように扱い、利益をバンバン出すようなアクティブな姿勢というよりは、「塾の活動を維持できる」ことが運営上の目標だと、最近頭の中でクリアになった。

 色々と書きましたが、生徒さんのご要望に幅広く対応します(勉強に興味の持てない人や国公立大用の受験対策もします)ので、気軽にお問い合わせください。

 4月からもどうぞよろしくお願い致します。きっと来てくれるお子さんがいる限り、一緒に喜怒哀楽の日々を送るんだろうな。私にとってそれはとても幸せなことです。

 昨年、うまく学生生活を送れなかったと感じている人、思うように進路を決めれなかった人、学校に行けなかった人も、心新たに新学期のスタートを切れますように。


塾の近くにある公園の桜